「聞いていた話と違う」「大事なことが伝わっていなかった」——保育の現場では、引き継ぎの行き違いによるヒヤリとした経験を持つ保育士は少なくないのではないでしょうか。シフト制で複数の保育士が入れ替わりながら保育にあたる以上、引き継ぎの質は、子どもたちの安全や保育の質そのものに直結する大切な業務です。
今回は、伝わる引き継ぎを行うためのメモの取り方や記録の工夫について、日々の業務に活かせる視点を整理してみたいと思います。
引き継ぎの質が保育の質を左右する
保育園では、早番・遅番・中番といったシフトのなかで、一日のうちに複数の保育士が入れ替わりながら子どもたちと関わります。ある保育士が把握していた情報が、次の担当者にきちんと伝わっていなければ、同じ説明を保護者に繰り返し求めてしまったり、子どもの体調変化への対応が遅れてしまったりすることにもつながりかねません。
引き継ぎは、単なる事務的な業務ではなく、保育の連続性を保つための大切な仕組みです。誰が読んでも、聞いても、同じように正確に情報が伝わる状態を作ることが、結果として子どもたちの安全と保護者からの信頼を守ることにつながります。
引き継ぎで抜け漏れが起きやすい理由
引き継ぎの抜け漏れは、多くの場合、忙しさのなかで起こります。お迎えの対応や片付けと重なる時間帯に、口頭だけで慌ただしく引き継ぎを済ませようとすると、伝えるべき情報が抜け落ちてしまうことがあります。
また、「言わなくても分かるだろう」という思い込みも、抜け漏れの原因の一つです。自分にとっては当たり前の情報でも、受け取る側にとっては初めて聞く内容かもしれません。特に、体調面や保護者からの伝言など、重要度の高い情報ほど、思い込みによる伝達漏れが起きやすい傾向があります。
さらに、担当するクラスの人数が多い場合、一人ひとりの情報を記憶だけで管理しようとすると、どうしても抜け漏れが発生しやすくなります。記憶に頼った引き継ぎには限界があるという前提を持っておくことが、正確な引き継ぎを行う上での第一歩になります。
分かりやすい記録・メモの取り方
伝わる引き継ぎを行うためには、その場で覚えておこうとするのではなく、こまめにメモを取る習慣を持つことが基本になります。子どもの体調変化や保護者からの伝言があった際は、その場ですぐに簡単なメモを残しておくことで、後から思い出す手間や漏れを防ぐことができます。
メモを取る際には、「誰が」「いつ」「何を」という基本情報を簡潔に書き留めることを意識すると、後から読み返したときにも状況が把握しやすくなります。「〇〇ちゃん、10時頃に少し咳あり。保護者に伝達済み」というように、簡潔でも要点が押さえられている記録は、次の担当者にとって非常に分かりやすいものになります。
また、体調に関する記録は特に、事実を客観的に書くことを意識したいところです。「少し元気がなさそう」といった主観的な表現だけでなく、「顔色がいつもより白っぽい」「食欲がいつもの半分程度」というように、具体的な様子を書き添えることで、次の担当者が状況を正確に把握しやすくなります。
口頭引き継ぎで意識したいポイント
記録に残すことに加えて、重要度の高い情報については、口頭でも直接伝えることが大切です。文字だけでは伝わりにくいニュアンスや緊急度を、口頭であれば補うことができます。
口頭で引き継ぐ際には、情報を羅列するのではなく、優先度の高いものから伝える意識を持つと、受け取る側も内容を整理しやすくなります。「まず一番大事なことから伝えると、〇〇ちゃんが少し発熱気味です」というように、重要な情報を先に伝える習慣をつけることで、聞き逃しを防ぐことができます。
また、伝えた後には「大丈夫そうですか」「何か確認したいことはありますか」と一言添えることで、聞き手が理解できているかを確認する機会を作ることも大切です。伝えたつもりで終わらせず、受け取られたかどうかまで意識することが、行き違いを防ぐポイントになります。
チームで共有しやすい仕組みづくり
個人のメモや口頭でのやり取りだけに頼るのではなく、チーム全体で情報を共有できる仕組みを整えておくことも、引き継ぎの質を高める上で役立ちます。多くの園では、引き継ぎノートやボードを活用し、その日の重要事項を誰もが確認できる状態にしています。
こうした共有ツールを活用する際は、情報を詰め込みすぎず、重要な内容が一目で分かるように整理することを意識したいところです。全員が忙しいなかで確認するものだからこそ、簡潔さと分かりやすさのバランスが求められます。
また、記録した情報が実際にきちんと伝わっているかを、定期的にチームで振り返ることも有効です。「先日のあの引き継ぎ、うまく伝わっていましたか」というように、日頃からコミュニケーションを取り合うことで、引き継ぎの仕組み自体をより良いものに改善していくことができます。
デジタルツールを活用した引き継ぎの工夫
近年は、紙のノートに加えて、ICTシステムを活用して引き継ぎ事項を記録・共有する園も増えてきています。デジタルツールを使うことで、複数の保育士が同時に情報を確認できたり、過去の記録を検索しやすくなったりするメリットがあります。
ただし、ツールが便利になっても、記録する内容の質そのものが重要であることに変わりはありません。入力を簡単に済ませようとするあまり、情報が簡略化されすぎてしまうと、かえって伝わりにくくなってしまうこともあります。ツールの特性を活かしながらも、「誰が読んでも分かる記録」という基本を忘れずに活用していくことが大切です。
新人指導の場面でも役立つ引き継ぎの視点
引き継ぎの丁寧さは、経験の浅い保育士を指導する場面でも大きな意味を持ちます。新人保育士にとって、先輩からの引き継ぎが具体的で分かりやすいものであれば、安心して次の対応にあたることができます。逆に、曖昧な引き継ぎが続くと、新人は何を基準に動けばよいのか分からず、不安を抱えたまま保育にあたることになってしまいます。
先輩保育士が丁寧な引き継ぎを実践する姿を見せることは、そのまま新人にとっての手本にもなります。引き継ぎの質を高める取り組みは、個人のスキルアップだけでなく、チーム全体の育成にもつながっていく視点だといえるでしょう。
緊急性の高い情報を見極める視点
引き継ぐべき情報のなかには、緊急性の高いものとそうでないものが混在しています。すべてを同じ重みで伝えようとすると、本当に重要な情報が埋もれてしまうことがあります。だからこそ、情報を受け取った時点で、「これはすぐに伝えるべきか」「記録に残しておけば十分か」を判断する視点を持つことが大切です。
例えば、発熱やケガなど、その日のうちに保護者への説明や対応が必要になる可能性がある情報は、口頭でもすぐに共有すべき事柄です。一方で、「今週末に発表会の衣装を持ち帰る予定」といった先の予定に関する情報は、記録に残しておけば当日までに確認できる内容だといえます。すべてを一律に扱うのではなく、情報の性質に応じて伝え方を使い分ける意識を持つことで、引き継ぎ全体の精度が上がっていきます。
引き継ぎを振り返る習慣を持つ
引き継ぎの仕組みは、一度整えたら終わりというものではありません。実際に運用してみて、「あの伝え方では分かりにくかった」「もっとこういう形式の方が伝わりやすい」といった気づきが生まれることもあります。
こうした気づきを個人の中だけにとどめず、チームで共有し、必要に応じて記録の形式ややり方を見直していく姿勢が、引き継ぎの質を継続的に高めていくことにつながります。うまくいかなかった引き継ぎがあったときこそ、責め合うのではなく、「次はどうすればより伝わりやすくなるか」を一緒に考える機会として捉えることが大切です。
まとめ
引き継ぎは、保育の連続性と子どもたちの安全を支える、地味ながらも非常に重要な業務です。思い込みに頼らず、こまめにメモを残す習慣を持つこと、口頭では優先度の高い情報から伝えること、そしてチーム全体で共有しやすい仕組みを整えることが、伝わる引き継ぎを実現するための基本になります。
日々の小さな積み重ねが、結果として子どもたちや保護者からの信頼につながっていきます。完璧な記録を目指す必要はありませんが、「次の担当者が困らないように」という意識を持ちながら、丁寧な引き継ぎを続けていってほしいと思います。
この記事の監修者

森 大輔(Mori Daisuke)
保育のせかい 代表
《資格》
保育士、幼稚園教諭、訪問介護員
《経歴》
2017年 保育のせかい 創業。2021年 幼保連携型認定こども園を開園するとともに、運営法人として、社会福祉法人の理事長に就任。その他 学校法人の理事・株式会社の取締役を兼任中。
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2026.09.17
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