保育士を目指したきっかけを聞くと、多くの人が「子どもが好きだから」と答えます。それは間違いなく大切な動機です。しかし、現場で数年働いた保育士の多くが口にするのは、「子どもが好きな気持ちだけでは乗り越えられないことがある」という言葉です。
保育士の離職率は他の職種と比べて高く、3〜5年で転職・離職する人が少なくありません。「子どもと関わることは好きなのに、仕事が続かない」「やりがいは感じているのに、気づけば疲れ果てている」。そんな矛盾した気持ちを抱えたことがある保育士さんも多いのではないでしょうか。
「あんなに頑張って資格を取ったのに」「本当はこの仕事が好きなのに、なぜこんなに辛いのだろう」。その問いに答えるヒントとして、この記事では保育士として長く、充実して働き続けるために大切にしたいことを、気持ちの持ち方・働き方・人間関係の視点から整理していきます。
「子どもが好き」は出発点であり、それだけでは足りない
子どもへの愛情は、保育士として働くうえで欠かせない原動力です。しかし保育の仕事は、子どもと関わる時間だけで成り立っているわけではありません。書類業務、保護者対応、行事の準備、職員間の連携……。保育士の仕事には、子どもと直接向き合う以外の多くの業務があります。
さらに、「子どもが好き」という気持ちは、現場のさまざまな現実によって削られていくことがあります。思い通りにいかない保育、子ども同士のトラブルへの対応、保護者からの難しい要望、職場の人間関係のストレス。これらに向き合い続けるには、「好き」という気持ち以上のものが必要になります。
長く働き続けている保育士に共通しているのは、「子どもが好き」という感情の上に、自分なりの軸や支えを持っているということです。その軸とは何か、以下で一緒に考えていきましょう。
自分の「保育観」を持つことの大切さ
長く働き続けている保育士の多くは、自分なりの「保育観」を持っています。保育観とは、「自分はどんな保育をしたいのか」「子どもとどう関わりたいのか」という、仕事の核になる考え方のことです。
保育観は最初から完成している必要はありません。子どもの反応を見ながら、先輩の仕事を観察しながら、研修や学びを通じながら、少しずつ育てていくものです。「このクラスの子どもたちが自信を持って何かに取り組める環境をつくりたい」「一人ひとりの個性を認める言葉かけをしたい」。そんな小さな思いが積み重なって、自分だけの保育観になっていきます。
保育観を持つことは、「迷ったときの判断基準」にもなります。困難な場面や疲弊しているとき、自分が大切にしていることに立ち返ることができれば、「それでも続けていきたい」という気持ちが生まれやすくなります。
保育観は、必ずしも研修や本から学ぶものだけではありません。日々の保育の中で「あ、この関わり方がよかった」「こうすれば子どもが動きやすくなった」という感覚の蓄積が、自分だけの保育観になっていきます。先輩に見習ったこと、失敗から学んだこと、それらすべてが糧になります。「まだ自分には保育観と呼べるものがない」と感じている人も、日々の気づきを大切にしていくことで、少しずつ育てていけます。
「完璧にやらなければ」という思い込みを手放す
保育士の中には、真面目で責任感が強い人が多い傾向があります。それは素晴らしい資質である一方、「全部完璧にやらなければ」という思い込みが、自分を追い詰める原因になることがあります。
連絡帳を毎日丁寧に書かなければ。行事の準備を誰よりも早く終わらせなければ。保護者の要望にすべて応えなければ。このような「〜しなければ」の積み重ねは、慢性的な疲労やバーンアウトにつながりやすいと言われています。
「今日できることを、今日の自分のペースでやる」という感覚は、長く働き続けるためにとても重要です。手を抜くという意味ではなく、優先順位をつけ、自分のキャパシティを大切にするという意味です。全力を尽くすことと、無理をし続けることは違います。完璧ではなくても、子どもたちの前で笑顔でいられる自分を保つことのほうが、長い目で見て大切なことかもしれません。
職場の人間関係を「全員と仲良くしなければ」と思わない
保育士の離職理由の中で、常に上位に挙がるのが「人間関係の悩み」です。少人数の職場で長時間一緒に働く保育士の環境では、人間関係が合わないと非常にストレスになりやすい面があります。
大切にしたいのは、「全員と仲良くしなければならない」という思い込みを手放すことです。価値観の違う人と同じ職場で働くことは、どんな仕事でも起こり得ることです。深くは仲良くなれなくても、仕事として丁寧に関われる関係を築くことが、まず現実的な目標になります。
その一方で、職場の中に一人でも「この人には話せる」と思える人がいることは、長く続けるための大きな支えになります。先輩でも後輩でも同期でも、仕事の悩みを話せる存在がいると、孤立感が和らぎ、「もう少し頑張ってみよう」と思えることがあります。
自分の体と心を後回しにしない
「子どもを優先するのが保育士の仕事」という意識は正しいですが、それが「自分の健康を犠牲にしてよい」という意味ではありません。体調不良を我慢し続けたり、心が限界を超えても出勤し続けることは、結果的に保育の質を下げるリスクにもなります。
疲れを感じたら早めに休む。定期的に好きなことをする時間をつくる。睡眠と食事をできるだけ整える。こうした当たり前のことが、忙しい保育現場では後回しになりがちです。
「自分が元気でないと、子どもたちに笑顔で向き合えない」という視点を持つことが大切です。自分の体と心を大切にすることは、保育士としての責任のひとつでもあります。心身の不調が長く続く場合は、一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家に相談することも選択肢として持っておきましょう。
「大きなやりがい」より「小さな喜び」を大切にする
保育の仕事のやりがいというと、「子どもの成長を見守れた」「卒園のとき涙が出るほど嬉しかった」といった、大きな感動の瞬間を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、長く働き続けている保育士が日々の支えにしているのは、むしろもっと小さな喜びであることが多いものです。
今日、苦手だった食材を一口食べた子がいた。登園を渋っていた子が、朝「先生おはよう」と笑顔で来てくれた。手洗いを自分からできるようになってきた。こうした「なんでもないように見えること」の積み重ねが、保育士の日々を支える力になります。
「大きな感動がないと続けられない」と思ってしまうと、日常がただの消耗に感じられてしまいます。一方で、「今日も小さないいことがあった」と感じられる感度を持っている保育士は、忙しく大変な日々の中にも充実感を見出しやすい傾向があります。意識的に「今日よかったこと」を探す視点を持つことが、長く働き続けるための見えない支えになっていきます。
「成長している実感」を自分でつくる
保育の仕事は、成果が数字や結果として見えにくい仕事です。「今日うまくできた」「子どもの変化に気づけた」という感覚は大切ですが、忙しい日々の中でそれを意識する余裕がなくなることもあります。
意識的に「できるようになったこと」「気づいたこと」を振り返る習慣を持つことが、成長の実感につながります。日誌の一言に今日の気づきを添える、週末に一週間を振り返る時間を5分だけとる。小さな積み重ねですが、「自分は確かに成長している」という感覚が、次の一週間へのエネルギーになります。
また、園内外の研修に参加することも、新しい視点や刺激を得るよい機会です。他の保育士の関わり方や保育観に触れることで、「こういうアプローチもあるのか」という発見が生まれ、日々の保育に新しい意味を見出しやすくなります。
「長く続けること」が目標ではなく、「自分らしく働くこと」が目標
最後に伝えたいのは、「長く続けること」自体を目標にしすぎないということです。続けることは大切ですが、無理をして疲弊したまま働き続けることが正解とは限りません。
今の職場が自分に合わないと感じるなら、転職を考えることも一つの選択肢です。保育士としての経験はどんな職場でも活きます。働く環境を変えることで、同じ保育士という仕事がまったく違って感じられることも多いからです。
「自分らしく、子どもたちに誠実に向き合い続けること」が、長く保育士として働く本質だと思います。そのために今の環境を続けるのか、変えるのかを、自分自身に正直に問い続けることが大切です。
まとめ
「子どもが好き」という気持ちは、保育士として働く大切な動機です。しかし、それだけでは乗り越えにくい現実があることも事実です。自分なりの保育観を育て、完璧主義を手放し、体と心を大切にし、小さな喜びや成長の実感を自分でつくっていく。そうした積み重ねが、保育士として長く、自分らしく働き続ける力になっていきます。
そして、もし今の職場が自分に合っていないと感じているなら、環境を変えることを恐れないでください。保育士としての経験や感性は、どんな園でも生きます。大切なのは、「続けること」より「自分らしく子どもたちに向き合い続けること」です。その問いを持ち続けることが、あなたの保育士人生をより充実したものにしていくはずです。
この記事の監修者

森 大輔(Mori Daisuke)
保育のせかい 代表
《資格》
保育士、幼稚園教諭、訪問介護員
《経歴》
2017年 保育のせかい 創業。2021年 幼保連携型認定こども園を開園するとともに、運営法人として、社会福祉法人の理事長に就任。その他 学校法人の理事・株式会社の取締役を兼任中。
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2026.07.14
2026.08.05





















