職業のイメージや待機児童問題の影響などで、保育園や保育施設の多くが保育士不足に陥っています。
職場で人手不足が続くと、保育士一人あたりの仕事量が増えたり希望通りの休みが取れないなど負担が大きくなります。
国・自治体では、保育士の労働環境や待遇面の改善のための対策を実施しているので、これ以上、人手不足に陥らないように努めていますが難しいのが現状です。
保育士の職業は、日本の未来を背負うことになる大切な子ども達を支えていく、尊いものなので必要不可欠です。
今回は、保育士不足の現状や理由とは何なのかや、保育士不足解消の鍵は潜在保育士の活用が大切なことと、国・自治体が行う対策と5つの解消策などについて解説していきます。
Contents
保育士不足の現状とは?
保育士は誰でも簡単になれるわけではなく、合格率20%台の国家資格の取得が必要な職業です。
ただし、国家資格のなかでも保育士は他と比べて賃金水準が低い傾向があり、仕事の対価に見合った給料が貰いにくいという認識を持っている人も多いです。
子どもの命を守る責任の重圧を感じながらの生活サポート、保護者とのコミュニケーション、先生として子どもに模範となる言動・態度をするなど色々なことをマルチタスクでこなしていかなければならないので、体力的にも精神的にもタフさが求められます。
保育士不足に陥っている現状があるのは、待機児童問題も関係しますが、保育士はやるべき業務が多岐にわたるので重労働で低賃金だと叫ばれているのも関わっています。
今、保育士として働いていないけれど、保育士の資格だけは持っている潜在保育士と呼ばれる人達もたくさんいるので、単純に資格取得までの道のりが難しいというのが保育士不足に繋がっているわけではありません。
保育士不足の理由とは?
保育士が多くの保育園や保育施設で足りなくなっているのは、今に始まったことではなく長期間、人手不足に陥っている状況です。
人それぞれ保育士を目指した目的や動機に違いがあるように、保育現場で働くのを辞めたり就職や転職の候補として考えない人にも、色々な理由があります。
保育士不足が続いている背景には、保育士の職業を経験したりイメージからネガティブな理由をもった人が多いから、退職者が増えたり働き手が少なくなってしまっていると言えます。
保育士不足になっているネガティブな理由は、以下のような声がありました。
子どもの命を守るという責任の重さ
保育士は保育園や保育施設で、日中に子どもの面倒を見られないパパやママの代わりにお子様を預かり身の回りの世話や、安全を守りながら、保護者が迎えに来るまでの間、何事もなく過ごさせなければいけません。
クラス担任になると、たくさんの子ども達を抱え一人ひとりに目を配る必要があるため一日中気を抜けません。
保育士は子どもの命を守ることが使命となっているので、その責任の重さにプレッシャーを感じて退職してしまう人もいます。
給料が安い
保育士の給料は、平均月収が25万円前後とされており国家資格が必要な職種のなかでも安い方です。
乳幼児の育児は、昔から誰でもできるものなので国家資格が必要な、保育士の保育の専門性はあまり世間から重視されてはいませんでした。
また、周りから見ると保育士の仕事が楽なイメージをもたれがちなのに、実際に働いている保育士は長時間労働や持ち帰り仕事などでバリバリ働いている割に給料が見合っていないと感じる人もいます。
休日が少ない
人手不足に陥っている保育業界は、保育現場で働く保育士の数が足りなくて一人あたりの仕事量が増え負担が大きくなっています。
保育園や保育施設で働く保育士が人手不足になっているところは、残業や持ち帰り仕事、休日出勤が度々発生しがちです。
休日が少なくなると、仕事とプライベートのオン・オフが上手く切り替えられなくて体調不良になったり、体力が回復しなくて辛くなって職場を退職してしまう保育士がいます。
長時間労働や持ち帰り仕事が多い
子ども達の生活サポートだけをするのが保育士の仕事内容ではありません。
保育日誌、保育だよりなどの作成、デスクワーク、保護者とのコミュニケーション、運動会やお遊戯会などの季節行事の企画運営、イベントの取り組みなどやることがたくさんあります。
休憩を取りたくても数分間だけしか休めない保育士もいます。
保育士は上記のように、やるべき仕事が多岐にわたるため長時間労働や持ち帰り仕事が度々発生するケースもあり、辛くなって職場を辞めてしまう保育士がいるのです。
人間関係に悩むことが多い
人間関係に悩む保育士も多いです。
基本的に、保育園や保育施設で働く保育士は女性が多く活躍していますから、派閥ができたり仲良しグループを作って輪の中に入れないような雰囲気を作ったりしているところもあります。
保育士の仕事は一人ではできなくて、チームワークが必要になるため他の職員との協調性が大事です。
保育士のなかには、上手く職場に馴染めずに居心地が悪くなって退職してしまう人がいます。
保育士に関連する記事はこちら⇒保育士の相談窓口はあるの?困った際の7つの問い合わせ先
保育士不足は仕事に将来性が無いから?
保育士不足の現状があるということは、働き手が少ないので多くの保育園や保育施設で人手不足に陥っているのがわかるのですが、保育士の職業自体に人気が無いわけではありません。
毎年、保育士を目指す人や保育士試験を受験する人もたくさんいます。
そして、保育士資格を持ちながら一度も保育士の仕事をしていない人や、働いていたけれど退職している人を含めて潜在保育士と呼ばれる人達が全国で約95万人にのぼるというデータがでています。
潜在保育士の方達は、もう保育士の仕事をしないと決めていたり、逆に保育士として再び働きたい意識がある人など気持ちは人それぞれ違うので、労働意欲がある人もたくさんいる状況です。
と言うことは、保育士不足になっている原因は仕事に将来性が無いからとは言い切れないのがわかります。
保育士不足解消のかぎは潜在保育士の活用が大切
潜在保育士の多くが保育士として働きたい意識があるため、自身の事情や課題が解決すれば保育業界に就職したいと考えていることがわかります。
正確な人数は断定できませんが、潜在保育士が全国で約95万人いるとすると何万、何十万人もの人達が保育士の仕事に携わりたいと思っているかもしれません。
そう考えると、ある意味保育士不足解消のかぎを握るのは潜在保育士の効果的な活用だと言えるのではないでしょうか。
潜在保育士が多くいる現状はわかりましたが、保育士の仕事を行うための労働意欲があるのに、なぜ早く保育業界で働かないのかという点が問題です。
個々で何か個人的な事情がある他、保育業界の労働条件・職場環境などが良くないと思っている人もたくさんいるので改善されない限りは、保育士不足解消には繋がっていかない可能性が高いです。
潜在保育士が働きやすいと思えるような仕組みの構築、働き方や雇用条件などの見直しをしたり、ブランクがある人に対してのサポート支援が充実していけば、少しは保育士不足解消の足がかりになるかもしれません。
現状はまだ多くの潜在保育士にとって、保育業界に魅力が足りていないことが考えられます。
保育士不足解消に向けて国が行う対策
保育士不足解消のために、国は何も動いていないわけではありません。
過去には、労働者が働きやすい環境にするために働き方改革の実施や、保育士の待遇面の充実を図るために処遇改善措置などの対策が行われています。
限定的な対策ではなく、定期的に見直しを行っているので保育士の働き方を何とか改善していこうと、国は考えているのがわかります。
その他にも、保育士の人数を増やすための「保育士確保プラン」として、労働環境の改善・学生の就職率の向上・保育士試験の回数を増やすなどの取り組みが行われたり、保育士の給料を定期的に見直して賃金水準を上げる「処遇改善等加算」など色々な方向から対策を実施中です。
保育士不足解消に向けて国は補助金を使って、保育士確保の予算を確保していますから国からの支援を受けていくとなると保育業界で働く保育士の職業は魅力的だと思う人達も増えてくる可能性があります。
また、待機児童問題の解消を目的とした「新子育て安心プラン」の対策や、保育士の昇給・昇進などを支援するための「キャリアアップ研修制度」の対策も実施されています。
保育士不足解消に向けて自治体が行う対策
地方自治体においても、保育士不足解消に向けて対策を実施しているところがあります。
自治体が行う保育士の支援は、補助金支給の対象施設であることが求められるため全ての保育園や保育施設が対象というわけではありませんが、勤め先によっては活用できるので確認してみてください。
家賃補助として「保育士宿舎借り上げ支援制度」を実施していたり、「住宅手当の支給」など、保育士不足解消に向けて国や地方自治体は力を入れています。
今すぐには保育士不足が解消されるわけではないため、長い目で見る必要があるでしょう。
保育士を目指している人や、すでに働いている人のなかには、上記のような国・自治体の支援を全く知らずに過ごしている人も多いです。
保育士不足の5つの解消策
保育士不足の5つの解消策を解説していきます。
給料の引き上げ
昔から、保育士は低賃金だと世間から認識されています。
保育士になるためには、保育士試験を受験して合格率20%台の国家資格を取得する必要があるため、誰でも簡単に目指せるというわけではありません。
国家資格の必要が無ければ、ある程度、給料の低さは納得できる人もいるでしょうが、せっかく一生懸命に勉強して保育士資格を取得しても、世間一般的に給料が低かったらギャップを感じてしまう人がでます。
そのため、保育士不足解消のためには給料の引き上げを段階的に実施していくことが重要です。
労働時間や残業時間の見直し
保育士は子どもの生活サポートがメイン業務ですが、その他にもやることが多岐にわたります。
そのうえ、人手不足も重なり保育士の数が足りていない保育園や保育施設ほど長時間労働、休日出勤、持ち帰り仕事などが度々発生しています。
もちろんホワイトな職場も存在しますが、一部の施設だけではなく保育業界そのものが保育士にとって働きやすい環境になっていく必要があるでしょう。
保育士不足解消のためには、保育業界の労働時間や残業時間の見直しを行い保育士が働きやすいように環境整備していくことが求められます。
無資格者で働ける環境を目指す
保育園や保育施設で働く場合、保育補助の仕事や正職員以外の働き方を希望すれば必ずしも保育士の国家資格は必要ありません。
無資格者でも保育業界で働けるのです。
保育士資格が必要な保育士が低賃金だとされていますから、無資格者で働くとなると国家資格が必要な保育士よりもさらに待遇面が充実していません。
保育業界で無資格者が働けるのは、保育士の仕事の負担軽減に繋がっていますが処遇改善を実施していくことで、雇用促進が見込めるのではないでしょうか。
保育士の評価制度を設定してやる気を高める
保育士は一般企業の従業員のように、細かく役職が分かれていないのでキャリアアップしにくい職業とも言われています。
そのため、昇進・昇格を目指して頑張ろうと思わない保育士もいます。
また、保育士の仕事は成果主義ではないため、個人での成績・成果が求められないのでインセンティブ報酬なども見込めません。
保育士不足解消のためには、保育士一人ひとりの働きぶりを正当に判断できる評価制度を設けて、やる気を高めることが求められます。
ICTを導入する
将来的にAIが発達したり、デジタル化が進んだりが見込まれているため、ビジネスパーソンの業務効率化に繋がる可能性があります。
保育業務の負担軽減や効率化を図るために、ICTシステムを導入する保育園や保育施設が増えています。
ICTシステムを活用すれば、保育業務に関する書類作成やデスクワークがインターネット上で簡単に行えるようになるため、保育士の仕事量や業務の負担が軽減でき、人手不足を補うのに役立つでしょう。
まとめ
保育士は事情があって、乳幼児の子育てに専念できない保護者のためには欠かせない尊い職業です。
しかしながら、現状は多くの保育園や保育施設で保育士不足に陥っています。
潜在保育士の問題や国・地方自治体が取り組んでいる保育士の労働環境・給料面の改善など、保育士不足解消についての課題解決には時間がまだまだ時間がかかりそうです。
この記事の監修は
保育のせかい
キャリアコンサルタント 渡辺愛菜(保育士)
保育士として勤務をした後、一般企業も経験しその後、保育のせかいに入社。
自身の経験をもとに求職者の方々へアドバイスをおこなっています。
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